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コンセプトノート

663. なぜ、もし、どうすれば

来たるべき超検索エンジンに備えて

『いつかテクノロジーがあらゆる質問に答えを用意できる日が来るだろう。いつの日かすべての人々が、ほとんどあらゆる事実に関する質問に対して、現在の私たちよりもはるかに正確に、しかも高い専門性を持って答えられる、クラウドベースの超検索エンジンに接続できる日が来るだろう。すると、』

テクノロジーがあらゆる質問に答えてくれる日が来ると、どうなるのか。”A more beautiful question”(もっと美しい質問)という美しい原題を持つ『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ダイヤモンド社、2016年)で、著者のウォーレン・バーガーはこう続けます(1)。

『さらに質問の価値が上昇して、答えの価値が低下する傾向が強まるはずだ。』

その結論にいたる前に、バーガーは「超検索エンジン」のさきがけというべきIBM社の質問応答システム「ワトソン」が医療の現場で使われている様子を見学しています。そこで彼は、ワトソンからよい答えを引き出すために利用者が優れた質問をできるようになっている、いってみればワトソンが利用者を教育している、という事実を知ったのです。

※だから知識は不要、質問の仕方だけを磨けばよい、というわけにもいきません。知識が無いほうが大胆な質問をしやすい一方で、知識があって初めて発せられる質問もあります。医療用ワトソンを使いこなすためには、用語の知識はもちろん、解答を評価する知識、解答の妥当性を検証するための再質問をする文脈的な知識などが必要でしょう。

組織という超検索エンジン

医療用ワトソンと利用者との関係は、組織とそのリーダーに似ていると感じました。

  • 利用者が読むべき論文は、すべてワトソンの中にあります。リーダーが参考にすべき現場の情報も、すべて組織の誰かの中にあります。
  • 利用者は、ワトソンから適切な答えを引き出すために適切な質問ができなければなりません。リーダーも、意思決定の材料を得るために適切な質問ができなければなりません。
  • 最終的に決めるのは利用者でありリーダーです。

要するに、ワトソンと組織は、その利用者あるいはリーダーにとって頼るべき唯一の情報源であり、適切な答えを引き出すためには適切な問いが必要という点で似ています。

たとえば、日報(日次報告)をリーダーに提出する組織があるとします。これはリーダーが毎日「現場で何が起きているのか?」という質問をしているのと同じです。

部下からの相談は、一見すると部下が質問をしてリーダーが答えているように思えます。しかし、なぜ部下が相談に来たかと言えば、それはリーダーが「何に、なぜ困っているのか?」という質問を暗黙のうちに発していたからとも言えます。相談しやすいリーダーとそうでないリーダーとの差は、そういった暗黙の問いの濃淡にあるのかもしれません。

すべての仕事は何らかの問いに答える作業であるとみなして捉え直すと、面白い発見ができるように思います。仕事を減らすとは、答えるべき問いを絞ることかもしれません。仕事の能率を上げるとは、問いの順序を注意深く組み立てることかもしれません。

行動を見出すための3つの質問

問いの順序に関して、著者は問い方に公式など無いと言いつつも、汎用的なプロセスを紹介しています。

  • なぜ?
  • もし~だったら?
  • どうすれば?

「なぜ?」は目的を問うのにも原因を問うのにも使える、それだけに曖昧な質問ですが、要するに解くべき問題そのものを明らかにするために使えます。「もし~だったら?」は可能性を広げるために使えます。これは「もし~だとしよう。するとどうなる?」と、「仮説+さらなる問い」という2つの要素からなっています。「どうすれば?」は具体的な行動を引き出すために使えます。

これは要するに、問題解決のプロセスですね。わたしの仕事における超検索エンジン、そこからすべての答えを引き出すべき対象は、トレーニングを共にする参加者の皆さんです。この3つ、特に「もし~だったら?」を意識して場に臨んでみようと思います。