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コンセプトノート

331. 「時間のなさ」感をめぐる脳内の戦い

私たちが何をし、何に注意したかによって、時間の経過は私たちの意識のなかで速くなったり遅くなったりする。

作家のシュテファン・クラインは『もっと時間があったなら!―時間をとり戻す6つの方法』という本で、時間がいかに相対的なものであるかを探っています。

特に興味を引かれたのが、「時間がない!」という感覚の原因を追及しているくだり。クライン氏が紹介していたのは、脳の「実行機能」の低下に関連する諸研究でした。

そもそも「実行機能」とは何か。Wikipediaの「前頭前皮質」の項から引用します。

実行機能は対立する考えを区別する能力の他、現在の行動によってどのような未来の結果が生じるかを決定する能力、確定したゴールへの行動、成果の予測、行動に基づく期待、社会的な”コントロール” (もし行ってしまったら、社会的に容認できないような結果を引き起こすような衝動を抑制する能力)に関係している。

この実行機能が弱まると、衝動的に行動しやすくなるそうです。たとえば、大事なことをやりかけていたのに、新しい刺激に反応して行動してしまったりする。その結果、物事が思い通りに進まず「時間がない!」と感じる。自分で自分の時間をコントロールできていないと感じると、それがストレスとなり、さらに「時間がない!」と感じる悪循環へと陥る(ここは後述)。大まかに言えばそのようなメカニズムだと理解しました。

では、実行機能を低下させる原因は何か?クライン氏の見解をまとめてみます。

  1. 【集中力の不足】加齢・先天的要因・訓練不足によってワーキングメモリー(実行機能の作業場所)が小さくなる → 衝動>計画 → 物事に専念できない → 「いったい何をして一日過ごしたのか?」
  2. 【ストレス】時間の使い方を自分で決められない → ストレス[増] → アドレナリン[増] → 実行機能の働き[弱] → 衝動>計画 → 衝動的な行動 → 焦りや混乱[増] → 「時間がない!」
  3. 【モチベーション低下】計画実行へのモチベーション[低] → 衝動>計画 → 1、2の流れを加速

「時間がない」と感じる原因*ListFreak

これらを裏返していけば「時間がない」状態に陥らないための工夫が考えられそうです。たとえば……

  1. 基礎体力としてのワーキングメモリーの維持・増強。ワーキングメモリーの容量は、(たとえ先天的に小さい人であっても)トレーニングによって維持・増強が可能だそうです。
  2. 時間の使い方を自分で決める。労働環境や家族環境にも依存する話なので簡単な解はありませんが、少なくとも可処分時間を増やせるように継続的な努力をすることはできます。
  3. モチベーションを維持する。これもわれわれが常に意識すべき課題で、簡単な解はありません。個人的には短期的な視点、つまり「今やっていることに対して高いモチベーションを保つ」ことと、中長期的な視点、つまり「モチベーション高く取り組めることの割合を増やす」ことの、2つの視点で考えていきたいと思っています。