仕事で約束(契約)を交わそうというときに、ちょっとイヤな感じが走るときがありますよね。逆に、話をしていて「この人と仕事をしてみたいかも!」という感じを受ける瞬間もあります。
そういう「ピンと来る感じ」を、「純粋理性の限界(感情が働かない患者の話)」というノートでは「シグナル」と呼びました。
わたしを含めて、そういう「目に見えないもの」を扱うのは苦手だという方は少なくないのではないでしょうか。わたしは論理的思考の研修なども設計・開発して提供しています。そこで扱っているのは、基本的にすべて「言葉にできるもの」です。論理的思考に限らず、ビジネス全般についてそうでしょう。意識的に捉えられない「いやな感じ」といったことは、話題に上ることすらまれです。
先に紹介したノートは、脳科学者アントニオ・ダマシオの『生存する脳―心と脳と身体の神秘』からの学びをまとめたものでした。その続編というべき『無意識の脳 自己意識の脳』に、意識の下からシグナルが上ってくる様子が分かりやすくまとめられていました。次に引用します。
■高い理性■ 意識的なイメージの中で、複雑、柔軟な ↑| 反応の計画が立てられ、行動として実行される || ――――――意識―――――――――――――――― |↓ ■感情■ 肉体的な苦と快と情動を伝える感覚パターンが ↑| イメージになる || |↓ ■情動■ 複雑だが定型的な反応パターン。一次の情動、 ↑| 二次の情動、背景的情動がこれに含まれる || |↓ ■基本的生命調節■ 代謝調節、反射作用など、かなり 単純で定型的な反応パターン。肉体的な苦や快、欲求や 動機になるものの背後にある生物学的機構も含まれる
このメカニズムを下から見てみましょう。わたしという「有機体」(著者がよく使う表現です)は、受け取った刺激に対するさまざまな反応パターンを編集し、「感情」というかたちで「わたし」という意識に知らせています。
感情は高度に編集されてしまっているがゆえに、その源を探るのは容易ではありません。しかしこの図は、感情が何らかの刺激に対する「反応」であって、まったくランダムに生まれてくるものではないことを示唆しています。
心理学者の見解も見ておきましょう。”Emotional Intelligence”という概念をEQ(EI)理論にまとめたピーター・サロベイ教授はこう言っています。
感情は思考を妨げる成り行き任せの支離滅裂な出来事ではない。感情は自分にとって何らかの重要な要因によって起こり、自分を動機づけたり成功へと導く。
『EQマネージャー』