クエスチョン・ストーミング
問いを通じて問題に取り組む方法を生徒たちに教える専門機関、ライト・クエスチョン・インスティテュート(RQI)は、受講者(子どもも大人も)は、皆で質問を考え出すことに集中するクエスチョン・ストーミング(Qストーミング)のほうが〔引用者補足:ブレインストーミングよりも〕自由な発想と豊かな創造性を発揮して物事を考えられるようだということを発見した。(略)問うときよりも答えるときのほうが厳しい反応を受けやすいのだ。
―― ウォーレン・バーガー 『Q思考――シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(太字は引用者による)
最後の文にハッとさせられました。たとえば「新商品の開発ペースが落ちている」という問題についてブレイン・ストーミングを行うとします。誰かが「社内でコンテストを実施する」というアイディアを出す。望ましいのは、それを否定せず、むしろそれに乗っかって次のアイディアを出すことです。しかし実際には難しい。われわれはアイディアを見るとなぜか反射的に批評をしてしまいます。「社内コンテストって盛り上がらないと悲惨だよね」といったふうに。
答えを見ると批評せずにはいられないという性向を、わたし自身ビジネススクールでの講義で使っていることに気づきました。ある意思決定問題があるとします。答えを出すための根拠をていねいに積み上げるより、粗くてもよいので誰かが答えの案を提出して、その粗さがしをしながら手直しをしていく方が充実した論理が組み上がるのです。これをグループワークを通じて実感してもらい、「たたき台」の効用を伝えています。ただし、たたき台を出すことは、批判を含む批評を受けること。相応の勇気が必要です。ですので準備として、お互いに意見しやすい雰囲気を作っておかねばなりません。
一方、クエスチョン・ストーミングはどうか。「新商品の開発ペースが落ちている」という問題であれば「どの程度落ちているのか?」といった分析的な質問から「どこまで落ちるのか?」「ゼロになったら会社はつぶれるのか?」といった興味本位な質問まで、とにかく挙げてみます。実際にやってみると、批評エンジンはやはり働きはするものの、たしかに答えのアイディアを出すよりは気楽です。
触媒的な質問を見つけ出す
ビジネスの世界では、ハル・グレガーセン(インシアード教授)が大企業におけるQストーミングの研究を続けており、従来のブレイン・ストーミングよりも効果が高いことを見出している。
本書にそうあったので、検索してみました。グレガーセン教授(INSEADからMITスローンスクールに移られたようです)は「触媒的な質問」 (Catalytic Questioning) と名づけているようです。どのように進めているか、Harvard Business Review誌への寄稿から、要約しつつ翻訳してみました。
- 【メンバーを白紙の周りに集める】 ホワイトボードでも模造紙でも可
- 【適切な問題を選ぶ】 チームが情理両面から気にかけている問題を選び出す
- 【質問だけを挙げ尽くす】 問題についての質問をできるだけ多く、少なくとも50は挙げる
- 【“触媒的な”質問を特定する】 現状を打開できそうな質問を3つか4つ、あるいは1つ選び出す
- 【解決策を見つける】 仕事にかかれ!質問の答えを見つける
触媒的な質問による問題解決の5ステップ – *ListFreak
バーガーはRQIの「クローズド・クエスチョンをオープンに、オープン・クエスチョンをクローズドに変えてみる」という手法も紹介しています。たとえば「どの程度落ちているのか?」はオープンなので、「落ち幅は大きくなっているのか?」「落ちて、困るのか?」など、はい/いいえで答えられる質問に変えてみます。このテクニックを使えば、25の質問を思いつければ50の質問がひねり出せることになります。そして面白いことに、当てずっぽうに質問を閉じたり開いたりしてみるだけで、様々な角度から自分に考えさせることができます。
問い尽くすという“贅沢”
ちょうど難儀している問題(ある講義の設計)があったので、独りでやってみたところ、意外な発見がありました。
これまでも問いを立てる作業というのは意識してやっていました。ただ、いつもは思考のプロセスに沿って問いを立てています。しかも、基本的には答えることを前提とした問いです。問いを書き連ねてみたこともありますが、あまり問い散らかすと後々答えるのが面倒になるという思いがどこかで働いていたのか、数を出してみようとしたことはなかったように思います。
思いつくままに、答えが出なくてもかまわないので、最低でも50、問いを立ててみる。表現が難しいのですが、贅沢な時間を持ったような気がします。内容に関する質問や実施時の心配に関する疑問まで大小の質問を挙げ尽くしていくと、頭が混乱するかと思いきや、その逆でした。設計上の要所、つまり時間をかけて答えるべき中心的な問いを手に入れた感覚が持てたのです。その問いがまさに“触媒的な”質問ということでしょう。
グレガーセンは “The 4-24 Project” というプロジェクトを実施しています。これは1日24時間のうち4分間を質問に捧げようというプロジェクト。4分間は24時間の360分の1なので、毎日実施すれば1年間のうち丸一日は質問を考えることになります。