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コンセプトノート

430. 見届ける

前回(音を立てない)の続きで、意思決定力の根幹をなす「今・ここに意識を傾注する」力を高めるためのエクササイズとして、経験的に有益と思われるものをもう一種類紹介します。

一つひとつの動作を、それを終えるまで見届ける。これだけです。前回紹介した「音を立てない」ための補助的なエクササイズでもあります。前回同様エクササイズとしては単純ですが実行は難しく、しかしきちんとできれば効果を感じられます。たとえば、ドアを後ろ手に閉めず、ドアから手が離れるのを見届ける。家に入るときには、靴が足から離れるのを見届ける。ゴミを捨てるときには、ゴミがゴミ箱に収まるのを見届ける。コップを机に置くならば、コップが手から離れるのを見届ける。そういった小さな動作をし終えるまで意識を向け続ける、目が届くようなら見届けるということです。

なんだかマナー教室みたいな話になってきましたが、わざわざ実践レポートを書くだけの価値はあると信じています。一つひとつの動作を区切ると、あれからこれへと意識がさまよってしまうことを防げます。結果として心を落ち着かせ、「今・ここに意識を傾注する」準備を整えやすくなります。

そういった練習をしていると、面白いことに気づきます。何かにつまづいてよろけたり、コップを落として割ってしまったりといったちょっとした失敗は、必ずといっていいほど「見届け不足」から起きているのです。
たとえば疲れて帰宅したとします。まだ靴も脱ぎ終えていないというのに、意識はもう玄関でなく居間に行ってしまっています。結果として、脱いだはずの靴に足を引っかけてよろけたりします。
あるいは、立食パーティーの最中に誰かに声をかけられたとします。顔はその方に向けつつ、右手でコップを机に置きつつ、左手では名刺入れを探りつつ……置いたはずのコップが他の皿に当たって倒れてしまうといった粗相をやらかしてしまうのは、こんな瞬間です。

「見届ける」エクササイズは、「これを終えてからあれを始める」ことを強制します。非常にミクロなサイズで行動を区切ります。そのリズム感というか身体感覚は、もちろん思考にも影響します。思考の輻輳(考えごとが重なり合い、絡み合ってしまうこと)を防ぐコツを教えてくれると感じています。