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コンセプトノート

299. 宣誓効果

時間がない、結果が読めない、あるいは責任が重いなど、プレッシャーのかかる状況下での選択はつねにわれわれを悩ませます。プレッシャーは考えの幅をせばめ、後から振り返ってみると明らかに偏った選択にわれわれを導くことがあります。

それを防ぐために、小さなリストを作成している人も多いでしょう。当サイトの自分ナビ作成プログラムのなかにある「ありたい自分」リストもその一つです。わたしが大きな決断をするときに使っているリストは、以前に「個人的に大きな決断をするための、いくつかの問い」というノートでご紹介しました(その後、『リスト化仕事術』に掲載しました)。

十戒を思い出そうとしただけで倫理的に振る舞える

経験的に感じているこういったリストの効果を裏付けるような実験を、行動経済学の解説書『予想どおりに不合理』に見つけました。

まず実験協力者に簡単な算数のテストを受けてもらいます。採点後、あるグループからは解答用紙を回収しますが、あるグループからは解答用紙を回収せず、正答数だけを別の紙に書いて自己申告してもらいます。後者のグループには申告時に正答数を上乗せする、ごまかしの余地があるわけです。両者のほんとうの正答率が同じと仮定すれば、前者の正答率を基準にすることでごまかしの程度が測れることになります。

ふつうに実施すると、後者グループは多少のごまかしをします。ところがテスト前に十戒を覚えている限り書き出すという作業を加えるだけで、ごまかしは無くなりました(他の要因が入り込まないように条件を整えています。詳しくは本書を参照のこと)。さらに興味深い発見は「十戒のうちひとつかふたつの戒めしか思いだせなかった学生も、一〇個をほぼ完璧に思いだした学生と同じくらい影響を受けた」(p277)こと。ここで示唆されているのは、十戒の内容ではなく倫理に思いを馳せるという行為そのものが、実験協力者にごまかしを思いとどまらせたということです。

宣誓効果

著者は他の実験とあわせて、われわれが正直でいるためには、誘惑の瞬間か直前に宣誓や規則を思い出すことが効果的と述べています。「宣誓効果」というこのノートのタイトルは、同書の小見出し「宣誓効果の実験」から引用しました。宣誓は就任時だけではなく、しじゅう行っておくほうがよいのです。

「見れども見えず」「右の耳から左の耳へ」ということわざが雄弁に物語っているとおり、われわれの認知はどれだけ対象に注意(attention)を向けているかによって大きく左右されます。

ということは、注意を向けるべきことを思い出させてくれる短いリストを作っておくだけで、プレッシャーのかかった状況における選択の質が高まるのではないでしょうか。

十戒の実験が示唆するように、ご立派なものでなくてもよいはずです。まずは自分の判断基準や「ありたい自分」を自らに宣誓しておこうという決意だけでも効果がありそうです。我々の日常は何しろ選択にあふれていますから、リストを育てるチャンスには事欠きません。