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コンセプトノート

347. 「言うまでもない問題」を言語化する

このような相談を受けたとしましょう。

「とにかく忙しすぎる。○○案件を10個も同時進行させられているんだよ」

皆さんはどのようなアドバイスをするでしょうか。

「案件を10個も抱えて忙しい」と聞けば、問題がありそうに思います。本人も、言うまでもなく問題だという雰囲気です。となれば、解決策を一緒に考えてあげたくなります。たとえば次のように。

「優先順位を付けてる?」
「いくつか、人に頼めないの?」
「どれか、後にずらせるんじゃないの?」
「よく似た案件をまとめて処理したらどう?」
「そんなに負荷がかかっていること、上司は知っているの?」

このまま問答を重ねていくと、仕事の負荷を減らす方策はいくつか見つかることでしょう。この人の問題は解決されたかに見えます。しかし、別の質問をすると、会話は別の方向に流れていきます。

「案件は少ないほうがいいの?『案件ゼロでヒマ』が最高に幸せってこと?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、『いつも案件3つくらいで定時帰り』が理想?」
「今よりはそっちがいいけど、そういう単純な話でもないんだよね」
「10個でも、最高にエキサイティングな案件だったらOKとか?」
「そうそう」
「とすると、どうなってたらいいの?」
「んー、難しいね……」

要するに「問題のない状態」がイメージされていないのです。となると、単純に仕事の負荷を減らせばこの人の問題が解決されるとは限りません。「足るを知る」と言いますが、「足れり」と思える状態が分からなければ、足るを知らない心はいつまでも問題を生み出すでしょう。

もちろん、単に「問題のない状態」でなく「理想の状態」を掲げることで、問題は常に生み出せます。たとえば企業の活動とは、めざす理念を掲げることで現れる問題(現状とのギャップ)を解き続けていくことといえるでしょう。
ここで言っているのは、そのように能動的に設定した問題のことではありません。自分の置かれた状況だけを見て「なんとなく好ましくないから問題」と考えてしまっているだけのケースが多いのではないかということです。

えらそうに書いてきましたが、わたしも同じ状態です。不満や問題を感じたということは、何かの期待や理想が裏切られた(現状とのギャップが発生した)ということなのですが、そういう期待や理想は自分の先入観に根ざしたもので、自覚すらしていないこともあります。すると、自分からすれば「言うまでもなく問題」だと感じることでも、敢えてそれを言ってみる、つまり言語化しようとしてみると意外に苦労したりします。

問題解決というと論理的な思考の世界の話と思われがちですが、このあたり、特に問題の発見に関しては、自分の感情を正しく認識・識別できる力(自己認識力)がポイントになると思います。