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コンセプトノート

476. 親の選択力を育てる(できれば子供の成長よりも速く)

先日、子育てについて話をする機会がありました。そのなかで、子供を保育園に預けて第一線で働くかた(女性)の言葉が耳に残りました。

「自分の選択が正しいのだろうかと、いつも思ってしまう」

という言葉です。わたしも二児の親として共感します。住む場所や学校といった生活環境から、おもちゃのような小物にいたるまで、子供の行動の多くは親の選択にゆだねられます。子供が小さいうちは特にそうです。
今回はそんな方向には行きませんでしたが、深みにはまってしまうと「そもそも、この子を産むという選択が正しかったのか」という悩みにまで行き着いてしまいます。「正解はない」と言うのは簡単ですが、それだけでは救いがないので、自分なりの最善解を見いだすためのアプローチを考えてみたくなりました。

もし自分の選択が正しいと知っていれば、悩みはありません。ですからこの状態を理想としましょう。では「知っている」とはどういう状態なのか。もっとも古くかつ有名な定義はプラトンによるもので、知識とは「正当化された」「真なる」「信念」であるというものです。

  1. それが真だと信じている
  2. 信じたことが真である
  3. 真だとわかった信念を、何らかの方法で正当化できる

知識の3条件*ListFreak

今回はこの3条件をとっかかりにして、すこしでも自信をもって選択をするためのやり方を整理してみたいと思います。

1.【真理】真理らしき説を探す
2.【正当化】その真理らしき説を吟味する
3.【信念】信じられる説を真理とみなし、行動に反映する

1.【真理】真理らしき説を探す
選択には基準が必要です。その基準になるのが知識であり、その知識の正しさは真理であるかどうかによって測られます。ところが、わたしの知るかぎり、誰もが認める「子育ての真理」はありません。それでも日々選択をしなければならない親としては、仮置きでもよいので自分なりの真理を持たねばなりません。

純然たる思索によって真理を見い出せる人もいるでしょうが、ふつうは本を読んだり人の話を聞いて、真理らしき説を探すところから始めると思います。たとえば次のような言葉はどうでしょうか。

  • 【個別性】人間は、一人ひとり違う。(Individuality)
  • 【好奇心】人間は、好奇心によって学ぶ。(Curiosity)
  • 【創造性】人間は、生まれつき創造的である。(Creativity)

教育者が心すべき、人間の3原則*ListFreak

2.【正当化】その真理らしき説を吟味する
上記の「教育者が心すべき、人間の3原則」がよさそうだと感じたとします。次に、それがほんとうに真理だと信じられるのか、よく吟味する必要があります。たとえば同い年の子供はどんどん話し始めているのに、自分の子供はなかなか口を利かないというとき、人間には【個別性】があるから気にしない、と言い切れるか。「発達障害でないかぎり」という一言を加えれば、真理として使えるか。そんな自問自答を経て、自分なりの言葉で真理を解釈し、再定義します。

3.【信念】信じられる説を真理とみなし、行動に反映する
思考実験による吟味には限界があるので、ある程度のところで「自分はこれが真理と信じる」という信念として、選択をすることになります。すると、選択の結果を通じて、いろいろ見えていなかったことが見えてきます。たとえば子供が生き物の命を粗末にするという問題と向き合った結果、人間の普遍性(たとえば思いやり)を信じて引き出すことも重要だという教訓を得るかもしれません。すると【個別性】を尊重しさえすればよいという単純な話ではなくなってきます。

上記のようなサイクルを重ねながら、自分なりの真理を書き換えていくのだと思います。それがある程度固まったのが、親としての持論ということになるでしょう。自分のことをふり返ると、親より子の成長のほうが速い、つまり親が親としての信念を育てるより速く子供は大きくなってしまう、という印象を持っています。まだ終わったわけではないので、挽回を図りたいと思います。

なお、長いので引用しませんが、「子育てに関する10のアドバイス」などは「真理らしき説」としてよいスタートポイントになるように思います。