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コンセプトノート

288. 宇宙論的症状(遭遇したことのない状況)

経営学の本で「宇宙論的症状」(cosmology episode)という珍しい言葉に出合いました。ミシガン大学ビジネススクールのカール E. ワイク教授へのインタビュー記事から拾いました。

教授は『人々が突然、この宇宙はもはや合理的で秩序あるシステムではない』と感じるほどの状況なので「宇宙論的症状」と命名しています。要するに、かつて遭遇したことのない状況に直面してパニック状態に陥っている状態ということです。

 ここ何年か、M&Aをはじめ、事業の売却や再統合、仕事の変更や上司の交代などが相次いだために、多くのビジネスマンが重度の字宙論的症状に見舞われています。経営幹部でさえ、自分がだれのために、また何のために働いているのか、判然としていません。

 そこにグローバル化と急速な環境の変化が加わった状況では、もはやだれも自分が何者なのか確信を持てなくなっていますが、これは無理からぬことです。自分が組織図のどこにいるのかさえ、はっきりしない人も少なくありません。

このインタビューは2003年のものですが、日本では2009年にこそあてはまる描写ではないでしょうか。今週講師を務めたビジネススクールのクラスでは、20人のうち2人、言い換えれば参加者の1割は、会社がM&Aを発表していました。

かつて経験したこともなく、何をすればよいか見当もつかないような状況に放り出されたら、どうすればよいのか。教授は『行動を起こす前にすべてを考え抜こうとするタイプ』は泥沼にはまってしまうと言います。行動し、体験し、『実体験を理解可能な世界観に転換する』。教授はこれをセンスメーキングと呼んでいます。

仮にいま「宇宙論的症状」的事態に見舞われていないとすると、平時のいま何ができるでしょうか。思いつくまま書いてみます。

・転職エージェントに会う
少なからぬ管理職は、転職するときに希望年収が下げられず、苦しむと聞きました。前の会社で何人の部下を抱えて何億円を動かしていたのだから、これくらいもらっていいはずだ。その自尊心が選択肢を狭めてしまうのだそうです。

・情報発信をしてみる
継続的な情報発信は、自分の考えの幅や深さをチェックするよいツールです。

・人に会う
特に「宇宙論的症状」を乗り越えた人がいたら、ぜひ。

・趣味を追究する
何がメシの種になるか分かりません。まったく仕事がなくなったら、趣味の周辺に何かチャンスがあるかもしれません。

(引用文献)
カール E. ワイク 『「不測の事態」の心理学』より。同論文はDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 『組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する』(ダイヤモンド社 2007年)所収。