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コンセプトノート

268. 「私は、人生で決断したことなんて一度もないね」

ウィンダム・ヒル・ミュージック・カンパニーの創立者でCEOのウィル・アッカーマンが父と交わした会話から。父は退官した大学教授。

ある夜、アッカーマンは父とポーチのロッキングチェアでくつろぎながら、新規事業について話していた。「建築もやったし音楽もやった。つぎは何をするか悩んでいるんだ」

 すると父はこう言った。「私は、人生で決断したことなんて一度もないね」

 アッカーマンは最初、「がっかり」したが、その後、気づいたという。何が正しいのかがわかれば、決断する必要はないのだと。何が正しいかわかった時、それは目の前にあり、ただやればいいのだと。(p167)

P. センゲほか 『出現する未来』 講談社 2006年

 『何が正しいのかがわかれば、決断する必要はない』。当たり前のように思えます。多くの場合、何が自分にとって正しいのかが分からない。だから迷い、敢えて決断しているわけです。

 しかし文章としては当たり前でも、深い含意があるように感じました。それは、自分にとって正しいことは「決める」ものではなく「分かる」ものであるという気づきです。

 「それはパパがたまたまそうだっただけだ」という気づきに留まった可能性もあったのに、なぜアッカーマンは父の言葉に共感できたのか。おそらくはいくつかの事業を立ち上げた経験を振り返って、父の言葉に真実を認めたのでしょう。

 同じ章に、ファスト・カンパニーという雑誌の共同創業者であるアラン・ウェバーの言葉も引用されています。

最初のうち、「なぜファスト・カンパニー誌を始めたのか」と聞かれると、ファスト・カンパニーの特徴を説明し、「おなじ特徴をもつ雑誌がなかったから」だと論理的に説明していた。だが、それはほんとうの答えではないことにすぐに気がついたと言う。「人が何かをやるのは、やらずにはいられないからだ。その理由を、頭がおかしいと思われないように説明するのはむずかしい」(p164)
― 同上