近所に、Aというカジュアルウェアの店があります。
女性オーナーが自らデザインした服をベースに、もう20年以上続いています。
かなり人気の出た時期もあり、拡張するチャンスもあった
らしいのですが、オーナーはその道を選びませんでした。
今でも地元の方を中心に人気のある店で
ありながら、一店限りでやっています。
ここ数年、ショーウィンドーに飾られる服が
ゆっくり変わってきました。
ひとことで言えば、ちょっと「おばさん風」になってきたのです。
店のブランドを支えるのは、
提供する製品・サービスの一貫性です。
Aは若向けの洒落た店だという印象があったので、
最初はこの変化を「もったいない」と感じました。
しかし実際には、店は長年にわたって繁盛しています。
考えてみると、そこにはAならではの企まざる戦略があり、
メリットがありました。
無理をする必要がない
多くの製品やサービスには、ターゲット顧客が想定されており、
実際、「30±3歳の働く独身女性を狙った」という表現が使われます。
ターゲットは不動なのに、自分は歳をとっていく。
だから徐々にギャップが生じる。
それが、しばしば我々が感じる、この感覚の源でしょう。
「市場を読めなく(顧客の考えが分からなく)なってきた」
「もう、感性が擦り切れてきた」
自分の感性が「擦り切れた」のではなく、
様々な経験や思考を経て、単に「変わった」のだとしても
ターゲットありきでビジネスをしている以上はマイナスです。
一方、Aのオーナーのターゲット顧客は「自分(の世代)」であり、
常に自分の興味に忠実であり続けているだけです。
顧客をしっかり掴むことができる
しかし、「売り手の興味のままに」では、普通はうまくいきません。
上で「ターゲットは不動」と書きました。普通は、商品とそれを売るための仕組みはすべてはターゲット顧客に向けて最適化されています。売るための仕組みとは例えば、店の立地から広告の出し方から商品の包装紙といった細々したことに至るまでの全てです。
その中で、肝心の商品だけテイストが老いてしまうわけにはいきません。
Aのやり方は逆です。
常に、少しずつ変わっていく。
しかも顧客の変化にぴったりと合った速さで。
それなのに、顧客を追い掛けているわけでもありません。
なぜそれが可能なのか。当たり前ですが、
「自分も顧客も、同じ速度で歳をとっている」
から。
顧客にしてみれば、ブランドを乗り換える必要がない。
オーナーが、常に同世代の感性でデザインしてくれた服が、そこにある。
商品のテイストが変化してしまったことをもって
「一貫性を失ってしまい、もったいない」
と感じたわけですが、実は見事な一貫性があったわけです。
オーナーの人生の歩みがそのままブランドである、と言ってもいい。
自分が欲しい製品・サービスを発想する。
自分が属するセグメントを、ターゲット顧客に据える。
Aにもまた、「ありのまま」の強さを見た気がしました。