印象のマネジメント
印象のマネジメントというと、身だしなみや表情を整えるようなことをイメージします。検索してみても、日本語のページはそういった内容が多いようです。
組織行動学の教科書ともいえる『【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ』にも、印象のマネジメントという項がありました。しかし、それが置かれているのは「第11章 力(パワー)と政治」の「政治:行使される力」という節の中です。
興味を引かれたので “impression management” で調べてみました。一般名詞というよりは学者によって概念化された言葉のようです。Wikipedia に挙げられていた例を要約します:
『たとえば重要な試合に臨む高校生のサッカー選手は、観戦している大学のリクルーターにベストな自分を見せたいと考える。 一番めだつシューズを履き、自らのスキルを披露するために最善を尽くす。 彼らの主な目標は、ゲームに勝つことよりも、リクルーターに良い印象を与えて大学チームに選ばれることなのだ。』
見苦しくない程度に振る舞おうという話ではなく、特定のゴールのために、他人から見た自分の印象を演出するという文脈で使われる言葉のようです。本ノートでは、その意味合いを示すために「印象のマネジメント」とカッコを付けておきます。
7つのIM技法
先述の本には『印象のマネジメントは、ごく最近になってようやく組織行動学の研究者が注目するようになったテーマである。』と書かれています。章立てからすると、政治的行動やパワー行使のサブテーマとして位置づけられているようです。
研究成果として紹介されていたのは、次の7つのIM (Impression Management) 技法でした。
- 【自己描写】 特性、能力、感情、意見、個人的生活などの個人的特徴を述べること。
- 【同調】 相手の承認を得るために相手の意見に同調すること。
- 【弁明】 窮地に立たされたとき、事の重大性をできるだけ軽く見せるために、その原因となった出来事について言い訳や正当化などの説明を行うこと。
- 【謝罪】 好ましくない出来事に対する責任を認め、同時に、その行為への許しを得ようとすること。
- 【手柄の主張】 好ましい出来事を、それが自分にとってできるだけ好ましい意味を持つよう説明すること。
- 【お世辞】 自分を理解のある好ましい人間に見せるため、他人の良いところを褒めること。
- 【好意】 相手の承認を得るためにその人の喜ぶことをすること。
印象のマネジメント技法 – *ListFreak
印象のマネジメントというよりは、印象のマニュピレーション(操作)技法のように思えます。それにアピール的な行動ばかりで、控えめなふるまいや気づかい、寡黙さなど静的な行動がもたらす印象がカバーされていないのも気になります。
心証のマネジメント
そこで、自分が持ち歩きたくなるリストに書き換えてみることにしました。いわば「私家版・印象のマネジメント」です。せっかくですから専用の名前として「心証のマネジメント」と命名しておきます。
- 自己描写 → 正確な自己描写
属性がもたらすステレオタイプを踏まえて、自分を正確に説明する。 - 同調 → 共感
相手に共感的理解を示す。 - 弁明 → 丁寧な説明
必要に応じて、自分の言動について意図や前提を含めて説明する。 - 謝罪 → 率直な謝罪
失敗に対しては自分の責任を認めて率直に謝罪し、事後策を講じる。 - 手柄の主張 → 感謝
成功に対しては、そのプロセスに関与した人たちへの感謝を表明する - お世辞 → 称賛
他人の良いところを積極的に見出し、称賛する。 - 好意 → 思いやり
他人が(潜在的に)望んでいることを汲み、応えるよう努める。
【自己描写】について、すこし補足します。自己描写の例として挙げられていたのは「失読症を克服してハーバード大学でMBAを取得した」といった自己アピールでした。心証のマネジメントでは、抱かれがちなイメージを補正するような説明を心がけます。人は自分を描写するのに学歴・職歴・技能・性格などの属性を用います。聞き手は、それらの言葉に対して持っているイメージを重ね合わせて「ああ、そういう人か」と思うわけですが、そのイメージは当人そのものではありません。ですので、自分を正確に理解してもらおうと思うならば、それを予測したうえで、補正を試みます。
たとえば、わたしが営業一筋20年だとすると、「営業一筋20年」と聞いた人がどういう人物像を描くか、おそらくは経験的に理解できているはず。それを考慮に入れた自己描写を心がけようということです。