よいストーリーの伝播力
異業種の部長が集まって学ぶ場でのファシリテーターを何年か務めています。ある回では、自組織における数年後のビジョンを描きます。
皆さん、事業上の目標はもちろんお持ちです。しかし、その目標を追うことの意味合いを部下に伝えるための意味づけには苦労されます。特に、コストセンターや顧客との対面業務がない部署では、世の中に自組織の仕事を位置づけるようなストーリーを思いつくのは、なかなかの難事です。
そこで、まずはグループの仲間から聞いた「いいビジョン」があれば、全体に共有してもらいます。なければ、過去のご参加者が語られた「いいビジョン」をわたしから紹介します。
そういう「いいビジョン」の原型は、「若いころ上司に聞いた話」だったりします。先日の回で50歳台後半の方が語った部のビジョンがグループの感銘を呼び、全体に共有されました。どうやって思いついたのかを聞いてみたところ、「入社したばかりの頃に聞かされた話を、ふと思い出した」とのこと。35年ほど前の小話が、今日の日本の産業界を支えるリーダー達に響いたわけです。わたしは次の回でこの方の話を紹介するでしょう。
優れたストーリーが時を超え、その回の参加者に、さらにはファシリテーターを媒介して他の回の参加者に、共有される。それが、各自の状況に合わせて解釈され、各自の組織に広まっていく。そんな様子を想像するのはとても楽しいことです。
語り直し (Re-storying)による語り広め
そのようにして各リーダーがビジョンを語るストーリーを作っても、ただ語るだけではなかなか共有されません。繰り返し語ることも重要ですが、より意味深く浸透効果が高いのは、ストーリーを聞いたメンバー自身による語り直しだと思います。
ビジョンの話ではありませんが、語り直しを奨励し、組織を超えてそれを広げていこうとする経営者の事例を読みました。
花王の尾﨑元規社長のように、経営層が各組織を回って、自らストーリーを語るだけではなく、そのストーリーに刺激を受けたメンバーに、自分のストーリーを語ってもらうようにするのです。「実はうちのところでもこんな話があったのです」と。それを聴いた経営層は「素晴らしいね」と受け止め、そのストーリーを別の組織に行って、「どこそこではこんな話があったんだそうだ」と話します。すると、その組織のメンバーが「うちでも……」と語り始めるわけです。
高間 邦男『組織を変える「仕掛け」~正解なき時代のリーダーシップとは~』
花の受粉を助けてまわる蜂のようです。しかもそれを、自ら語る以上に語ってもらうことによって実現しています。わたしも蜂のイメージを持っていろんなセッションに臨んでみようと思います。