「ガツンと言ってやってくれ」
「ガツンと言ってやってください」
研修の直前、人事部の方と雑談をしていると、よくそんなふうに言われます。「遠慮せずどうぞ」くらいの意味合いのときもあれば、「叱って・叩いて・打ちのめしてほしい」という意味合いのときもあります。
後者が期待しているのは、「現状のままではダメだと第三者からガツンと言われると、言われた側はハッと目が覚めて自己変革への意欲を高める」といったシナリオだと思います。そんな風に進めてもだいたいはうまくいかないのですが、一方で「厳しいことを言われて目が覚めた」経験を持っている人は多いと思います。
「ガツン」が機能するかしないかを分けるものは何なのでしょうか。
変化は準備が5割
個人ではなく組織の変革ですが、参考になるリストがあります。ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッター教授が1995年に示した8ステップがそれで、この分野では定番といえるでしょう。教授の著書『企業変革力』から引用します。
- 危機意識を高める
- 変革推進のための連帯チームを築く
- ビジョンと戦略を生み出す
- 変革のためのビジョンを周知徹底する
- 従業員の自発を促す
- 短期的成果を実現する
- 成果を生かして、さらなる変革を推進する
- 新しい方法を企業文化に定着させる
企業変革を推進するための8段階のプロセス(コッター) – *ListFreak
この8ステップを、「変化」についてのより大きな枠組みであるレヴィンの変化モデルに照らして分類してみます。
- 【解凍】:その変化が不可欠であることを認識して、旧来の信念や実践を取りのぞいて変化のための準備を整える過程
- 【変化】:変化が生じる過程。以前のものの見方やシステムが不要になることで惹きおこされる混乱や苦しみがともなうことがある
- 【冷凍】:新たなものの見方が結晶する過程。新しい枠組みのなかでの快適さと恒常性の感覚がふたたびあらわれてくる
レヴィンの変化モデル – *ListFreak
大まかにいって、1~4までを「解凍」、5~7を「変化」、8を「凍結」に対応させられるでしょう。
各ステップの労力は同じではないのでステップ数で比較するのは必ずしも妥当ではありません。しかしそれでも8ステップの半分が「解凍」、つまり変化の準備段階に費やされていることがわかると、「ガツン」が機能する条件が見えてきます。
(変革への)準備は整っているか。この一言に尽きるように思います。
変革への準備は整っているか
第4ステップが成功していれば、ビジョン、つまり組織のあるべき姿が見えています。問題意識はあるべき姿と現状とのギャップを感じたときに生まれるとすれば、現状をしっかり認識できれば、それが「ガツン」になるはずです。逆に、あるべき姿が見えていない状況で「今の姿ではダメだ」と訴えても、戸惑われるか反発されるかが落ちでしょう。