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コンセプトノート

564. 人格でおカネが借りられるのか(フレームワーク思考の話)

信用の4C

先日、子供が「クレジットの4C」という言葉を教えてくれました。クレジットカードを作ったりローンを組んだりするときに、貸し手はこういう点をみるんだよという心得で、家庭科の先生が何かの折に紹介されたようです。聞いてみると、”Capacity”と”Character”だけは思い出してくれました。Capacityはおそらく「(返済)能力」でしょう。通常能力という意味合いで使われる英単語ではないので、4Cは海外産だろうと予測がつきます。Characterは「人格」でしょうが、お金を貸すときに借り手の人格を見るというのは、なんだかウェットに感じられます。

Capacity(能力)という単語の選択の欧米感(?)とCharacter(人格)で貸出を判断するという浪花節感(?)のギャップに興味を持ち、4Cを探してみました。すると全銀協(全国銀行協会)が出している『賢くつきあうローン&クレジット』という教材を見つけることができました。『お金を借りる人の「信用」とは、具体的には次の「4つのC」で表されるといわれています。』という前置きのもと、次の項目が紹介されています。たしかに、人格が第一に挙がっています。

  • 【Character -人格】 借りたお金は後で必ず返済するという約束を正しく理解し、約束どおり返済する意志があるかどうか。
  • 【Capacity -支払能力】 借りたお金をスムースに返済していける支払能力があるかどうか。
  • 【Capital -資産(または Collateral -担保)】 病気や事故などにより返済が困難な状態におちいった場合でも、これをカバーする資産などがあるかどうか。担保があるかどうかをあげることもあります。
  • 【Control -自己管理】 自分の返済能力の範囲内で計画的に利用し、計画的に返済することができるかどうか。

信用の4C(全銀協版)*ListFreak

……ほんとうに貸し手は借り手の人格を見定めているのでしょうか。起業家の物語などを読んでいると、主人公の人格を信用して融資を行う銀行マンが出てきたりします。しかし、それは本で描写するに値するくらい稀なことだからともいえます。見きわめが難しそうだという点では”Control”(自己管理)という項目も同様です。それに、Characterほどではないにせよ、言葉の選択にどうも和製な印象もあります。

そこでもう少し執念深くリサーチを続けると、アメリカの老舗ガイドサイトabout.comに4Cの定義がありました。先述のリストが個人の借り手を念頭に作られているのに対し、こちらは事業主ないし法人を対象に作られています。

  • 【Character – 履歴 】 信用履歴など、築いてきた“経済民としての人格”は高いか。
  • 【Capacity – 収益力】 返済資金を稼ぎ続けられるか。
  • 【Capital – 資産】 返済資金に充てられる現預金や現物などはあるか。
  • 【Collateral – 担保】 返済できなくなった場合に換金できるもの(担保)はあるか。

信用の4C(about.com版)*ListFreak

Characterを履歴とするのは意訳に過ぎるでしょうが、要するにクレジットスコアなどで測られる“経済民としての人格”を指していました(ちなみに経済民もfinancial citizenを意訳した造語です)。そういう意味合いであれば納得できます。

ただの箇条書きとフレームワークの違い

2つのリストの違いは、対象としている借り手の違いから、個人と法人の違いとみることもできます。作者の違いから、日本と欧米(おそらくアメリカ)の違いとみることもできます(どちらも「4Cと言われている」といった伝聞調で紹介をしているので直接の作者はわかりませんが)。

わたしが注目したいのは、この2つは同じ4Cでありながら、そしておそらくは前者が後者を真似たものでありながら、前者が「ただの箇条書き」で、後者は「フレームワーク」になっているという、その違いぶりです。

貸し手の立場で、まずは後者から見てみましょう。
最初のCharacterと他の3者は意味合いが少し異なります。信用情報は過去の履歴を元にスコア化されているので、最初にCharacterをチェックすれば第2項目以降を注意深くチェックすべきかどうかがわかります。
そのうえで、稼いで返せるか -> 資産を売って返せるか -> 返せない場合の担保を取れるか、をチェックする。つまりこのリストは順序にも(通常手段から非常手段へ、という)意味があるのです。わたしはこれを書きながら、こちらの3Cは当分忘れない自信を持ちました。貸し手の三か条として「稼げるか、売れるか、剥がせるか」という物騒な標語まで思いついてしまったくらいです。

前者はどうか。内容の面でも順序の面でも、秩序が見えてきません。「自己管理」は「支払能力」に含まれるのではないかとか、なぜ最終手段っぽい「資産や担保」の話のあとに「自己管理」が来るのだろうとか、気になる点ばかり浮かんできます。

4Cと名付けて紹介するということは、読者に覚えてもらおうということでしょう。であれば、もう一手間かけて枠組みとしての完成度をチェックして欲しかったところです。このリストであれば、自己管理を削り、「人格(意志)」「能力」「意志や能力ではどうにもならないときのバックアップ」とでもすれば、秩序が見えてくるので、覚えやすくもなりそうです。