ミニレビュー
Amazon.co.jpの内容紹介から。
明晰な思考を妨げる最大の障害は、人がものごとを複雑に考えすぎるっていうことだ。現実は複雑だと信じ込んでいる。だから、複雑な説明やソリューションを求めたがる。これは、とても厄介なことだ
著者の思考の明晰さは、『ザ・ゴール』などの一連の著作で証明されています。多大な期待をもって読みました。いくつか興味を引いたポイント別に紹介します。
●「ものごとは、そもそもシンプルである」と信じる
やみくもに奥深く掘り下げ、ただ単純にものごとを細かく打ち砕いて、その膨大な因果関係を露呈するだけでは、その複雑さに圧倒されるだけで終わってしまう(p74)
大いに共感できるところです。精密に分析しようと思えば思うほど、因果関係の密林の中で迷子になりがち。しかし著者は『どんどん掘り下げていくと、原因は収束していく』と言います。どのような見方をすればよいのか?
「収束とは、根本的な原因には一つの結果だけではなく、複数の結果が伴うということを意味する。つまり、『ものごとは、そもそもシンプルである』と信じることができれば、どんな原因にも、それに伴って少なくとも二つ異なる結果が生じていると思って間違いない」
原因と結果は1:Nの関係にあるので、うまく構造化していくと大本の原因を特定できるということですね。過去の著作を通じて、著者はつねに事象を過度に複雑化しないで、おおもとの原因を掴もうとしてきました。その思想が披露されたということでしょうか。しかし「少数の大きな原因を特定する」ということであれば、原因分析の心得としては割と普及していて(参考:『[新版]MBAクリティカル・シンキング』)、著者が新著で世に問うた意図を汲み取れませんでした。
もし文字通りの意味で「ものごとは、そもそもシンプルである」という主張であるならば、それを信じさせてくれるだけの根拠は掴めなかったなあ、というのが感想です。「『ものごとは、そもそもシンプルである』と割り切ると、本質的な原因を特定しやすい」というくらいではないでしょうか。
一つの原因から複数の結果が生じるのはたしかだと思いますが、お互いに関連しない複数の原因が合わさって一つの結果を生み出すこともあり得ます。例えば「チーム内の不和」と「業績の悪化」が「士気低下」という結果を招くとか(実際には「士気低下」が前二者の原因になり、この因果関係は循環します)。「チーム内の不和」と「業績の悪化」が同じ原因の結果であることもあるでしょうが、そうでないケースも想定できます。
●「双方の利益につながる変化が存在する」と信じる
つまり、いかなる関係においても、双方の利益につながる変化が存在する、という考えをもってスタートすべきというアプローチだ。実際に、そんな変化が存在するかどうかは問題ではない。重要なのは、窮状を呈した関係に直面した時、相手を責めるのではなく、ウイン−ウインの変化が必ず存在すると信じて取り組むべきだということだ。
著者が『ザ・ゴール2』で既に指摘していることですね。ハードサイエンスの方法論でビジネスの諸問題を解決してきた著者ですが、この辺りの記述は『7つの習慣』を彷彿とさせます。
●直感を信じる
私は人の経験や直感は、実に凄いものだと思うようになった。いや、敬意さえ払っている。
仮説を立てるにも、あるいは結果を予想するにも、直感なくしては無理なんだ。どんな前提があるのか、それを見つけ出すにも、やはり直感が必要だ
ここは過去の著作ではそれほど強調されなかったポイントではないでしょうか。理詰めでいく著者の言葉だからこそ、重みがあります。