ミニレビュー
正直こそ最高の戦略
「ホッピー」という飲料は、(1)全国区の(2)アルコール飲料で(3)どこかの大手メーカーの1ブランドだっけ、くらいの知識しかなかったのですが、全部違っていました。(1)首都圏ローカルの(2)清涼飲料水(ただしアルコール度0.8%)で(3)社員数40名未満の独立飲料メーカーの製品、なんですね。
著者は、その「ホッピー」を製造している会社の三代目を継ぐことになる女性副社長、石渡 美奈さん。本書は、彼女が入社してからの奮闘記+半生記といった感じの本です。
一読、いろんな意味で「危なっかしさ」を感じる人は少なくないと思います。経営の「師匠」たる小山 昇氏に依存しすぎじゃないの?製造現場を知らなさすぎじゃないの?宣伝本なんて書いている場合……?
でも、結果は出ています。年商は、2001年の大底から5年で3倍になりました。著者の、身体を張った改革とプロモーション活動が寄与しているのは間違いないでしょう。
読んでいるうちに、「正直こそ最高の戦略」という言葉を思い出しました。これは『社会的ジレンマ』の著者、山岸俊男氏の言葉(「信頼の時代を語る。山岸俊男さんの研究を学ぼう」)。自慢も恥も、理念も利己心も、飾ることなく吐き出しながら突っ走っていくような正直さが、著者の成長力の源泉であるような気がします。例えば、「師匠」の言葉を引いてこう語ります。
小山さんが常におっしゃるのは、「真似は最高の創造」「学ぶことは真似ぶこと」。
ゼロから何かを生み出すのは、よっぽどの天才でもない限り、難しい。それより、他人や他の会社で成功している業務プロセスやビジネスプロセスをどんどん真似て、自社でも実行することのほうが確実だし、時間の無駄がない。自分の会社で実行してみて、使い勝手が悪いところや、うまくいかないところがあったら、そこで初めて改善すればいい。
確かにその通りだと思い、私は実践経営塾の講義を受けながら「なるほど、これはいい」と思ったことは、すぐに会社に持ち帰り、採り入れることにした。(p38)
ふむふむと思う人は多かれど、著者のような見事な真似っぷりはなかなか真似できないのではないだろうかと思います。40歳も近くなって、特に事業を継ぐ身でありながら、虚心に真似て学んでいく姿勢は著者の美質ですね。がんばれホッピー。