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静かなリーダーシップ


ミニレビュー

引用:

 

 これらの人は、個人的には中庸で控えめ、懐疑的または狡猾なほど現実的で、自分自身の利害に対して健全な感覚があった。カリスマ性はなく、権力もない。自分自身を通常の意味でのリーダーであるとは考えていなかった。表舞台に出ず、忍耐強く慎重に、良識をもって行動しようとしていた。(p16)

「これらの人」が、本書のテーマである「静かなリーダーシップ」を発揮している人たちです。「静かなリーダーシップ」と対照的な存在として描かれているのが、「ヒーロー型リーダーシップ」。しかし本書の意義は、単にヒーロー型のリーダーシップに対するオルタナティブを提示したというような狭いものではありません。これは渡邊有貴さんが解説で的確にまとめてくださっています。

引用:

 

 従来型のリーダシップ論では、マネジメントと組み合わせていかに組織目標を達成するかにフォーカスしていた。それに対して、静かなリーダーシップ論では行動するための意思決定の根底には個人としての動機が存在し、その動機が重要であることが繰り返し強調される。(p226)

例えば第三章「時間を稼ぐ」。ヒーロー型リーダーは困難な状況でも即断即決をよしとするかもしれませんが、著者が見出した静かなリーダー達は、『問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるのだ。(略)時間を稼げば、風向きを見ながらチャンスや物事のパターンをつかむことができる(p69、太字は原文ママ)』と考えます。

「時間を稼ぐ」「風向きを見る」だけではありません。静かなリーダーは「組織内での影響力を維持する」「リスクと報酬を考える」ことも忘れません。そのうえで、自分の原則をできるだけ曲げずに責務を果たそうとしています。

著者は慎重にも『本書はエッセイに過ぎない』と書かれています。たしかに、静かなリーダー達の行動様式をさまざまな角度から浮き彫りにしてはいるものの、何かの方法論や定理を提示しているわけではありません。しかしそれはそこまで煮詰まってはいないというだけで、この「静かなリーダーシップ」がある真理を捉えたという自負があるからこそ、出版したのでしょう。

個人の意思決定スタイルを考える上で、同じ著者の『「決定的瞬間」の思考法』(邦訳は後ですが時期的にはこちらが前)と併せておすすめです。