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ソーラー地球経済

  • タイトル:ソーラー地球経済
  • 著者:ヘルマン シェーア(著)、Scheer,Hermann(原著)、みね子, 今泉(翻訳)
  • 出版社:岩波書店
  • 出版日:2001-12-14

ミニレビュー

makiさんに教えてもらって読みました。

「ソーラー」というのはいわゆる「太陽光発電」だけではなく、風力、水力、バイオマスなども含んだ、「太陽由来」のエネルギー源を指しています。ソーラー化の実現可能性とメリットを力強く論じた好著。

化石資源エネルギーとソーラーエネルギーの根本的な違いを「連鎖」の長さの違いであると解いていて、これが面白いです。

大変読みごたえのある本なのですが大雑把に要約を試みると:

化石資源は採掘できる場所が偏っていますよね。この偏りとエネルギーを取り出すまでのプロセスの長さが「やむを得ず」グローバル化をおこしてきました。たとえば石油の連鎖は「採掘→輸送→精製→処理→貯蔵→輸送→利用」の7段階。時間的にも地理的にも長大な連鎖です。

市場経済というゲームのルールの下でこの資源産業を制したのは、当然ながらスケールメリットを効かせられるコンツェルン(ちょっと懐かしい響き…)でした。
多国籍資源企業は、連鎖の始まりの方では(例えば)産油国同士を反目させることによって、また終わりの方では小規模な発電事業を排除することによって、発電の独占を維持しようとしています。

一方、太陽由来のエネルギーはあまねく存在し、またエネルギー化までのステップが短い。つまり「連鎖」がすごく短いわけです。しかも我々の生活をまかなうに十分なエネルギーがそこから取り出せる。

だから「やむを得ない」グローバル化は止められるし、コンツェルンの独占もなくなるし、長い連鎖をたどること自体で損ねている自然環境も守ることができる。

…ざっとこんな論理です。どうです。間然するところなし、でしょう 。

著者のヘルマン・シェーア氏は政治家であり、経済学者であるとのこと。だから、ソーラー経済の成立可能性について論理的に論じた後で、

引用:

 ソーラー資源の広範囲な導入へのいかなる戦略も、それがエネルギーコンツェルンの戦略を考慮に入れなければ、限界のある、あるいは誤った解答に行き着いてしまう。

という具合に現実的な目配りもされています。

「訳者あとがき」がよくまとまっているので、それに寄りかかりながら本書の魅力を三つピックアップしてみたいと思います。

一つめは、『推理小説を読むように次々と謎がとけてくる』説得力の高さ。これは上で要約を試みました。
二つめは、『勇気と希望をあたえてくれる』メッセージ。全部理解できたとはとてもいえませんが、(経済的・政治的な側面からは険しい道のりであるものの)100%ソーラー化が論理的には可能であることが詳細に述べられているので、化石資源に頼らなくてもやっていけるらしい希望が持てます。
三つめは、ソーラー化という観点からすると日本は資源が豊かな国らしいこと。『日本は化石資源に乏しいけれど、太陽、風力、地熱、波力に恵まれ、モンスーン気候のおかげで植物はどんどん育つ、まさしくソーラー経済にぴったりの国である。』これは訳者(今泉みね子さん)の言葉。