能力、善意、誠実さ(信頼の3要因)(2)

信頼 = 能力・善意・誠実さ

フィードバック・合意形成・交渉といったヒューマンスキルは、相互の信頼を前提にしています。相手の言葉が信頼できなければ、それを受け入れることも解釈することもできず、その先もありません。過去のノートでは、担保がない状態での期待を信頼と捉え(「人を信頼するために必要なもの」)、それは大きく能力・善意・誠実さに対する期待に分解できる(「能力、善意、誠実さ(信頼の3要因)」)ことを見てきました。

先日、この3要因を定義した論文(1)に目を通す時間がありました。たんに「信頼」というと幅広く、たとえば機械に対しても信頼という概念がありますが、人間組織内での信頼に焦点を当てています。学びをまとめておきます。

まず信頼とは何か。信頼とは、『自分が相手を監視あるいは制御できるかどうかにかかわらず、相手が自分にとって重要な行動を取ってくれるという期待に基づいて、相手の行動を受け入れようとする意欲』(2)だと定義されています。

その信頼は、どのような要素からなっているか。過去の論文を統合して能力・善意・誠実さの3つにまとめています。

  • 【能力(Ability)】 信頼の対象となる領域で発揮できる力を持っているか?
  • 【善意(Benevolence)】 利己的な動機でなくこちらのために行動したいと思っているか?
  • 【誠実さ(Integrity)】 こちらが受け入れられる原則に則って行動しているか?
信頼の構成要素 (Mayer) – *ListFreak

「能力」は、特定の領域で発揮できるスキル・コンピテンシー・資質です。「特定の領域で」というのは、たとえば法律の相談をする相手に期待するのは法律の知識や能力であって、料理の能力ではないという意味です。

「善意」は、相手が自己中心的な動機を脇に置いて自分にとって善となる行動をしてくれると信じられる度合いです。たとえば自己利益を優先させるために嘘をついたりしないという意味です。

「誠実さ」は、相手の言動に原則があり、それが自分にとって受け入れ可能であるという認識です。たとえば、公正や正義といった自分が守っている原則を相手も守ってくれるという意味です。

3要素入りの信頼は本当に前提なのか

こうしてみてみると、ビジネスで信頼を勝ち得るのが難しい状況もあることが見えてきます。

たとえば冒頭で契約交渉にも信頼が必要と書きました。「能力」には、商品知識・価値創造のメカニズムに対する理解・最善案を作るために必要な社内での政治力などが含まれるでしょう。これを示すことは、当該能力を持っていれば難しいことではありません。

「誠実さ」も、公正や商慣習の遵守といった原則を意識し、言行一致を心がけることで示せそうです。ただし、それが相手にとって受け入れられない原則であれば信頼につながりません。その場合はこちらも相手を信頼できないことになります。信頼が低くなるほど相互に提示するエビデンスが増えるので、妥結には時間がかかるでしょう。

しかし「善意」はどうでしょうか。交渉にはパイを広げる局面と広げたパイを分け合う局面があり、後者の局面では競争的にならざるを得ません。単一の交渉のみならず、企業活動全般を見ても市場を広げる(パイを広げる)行動とパイを分け合う(シェア争いをする)行動が同時になされています。

交渉相手に示せる「善意」とは何か。善意とは、自己利益を脇において相手の利益のために行動したいと願う気持ちです。嘘をつかないとか業界全体の利益を図るといった言動は「誠実さ」に分類されるでしょう。パイを増やす、つまり交渉によって得られる価値をつくり出すための譲歩も善意の顕れとはいえません。その譲歩は分け合える価値を増やすことに目的があり、増やした価値の全てを相手に差し出すためではないからです。

信頼をベースにした競争というと、スポーツもわかりやすい例です。たとえばラグビーでは「能力」が著しく違っていたり、ルールを無視するような「誠実さ」に欠ける行為があったりしたら、ゲームが成立しません。では「善意」を示すために相手に点を取らせてあげるべきかというと、そうではありません。多く点を取ったほうが勝ちという競争的なルールを両者が認めてゲームをしているのですから。

信頼が必要と感じるとき、具体的には何が必要なのか

とすると、一行目に書いた、ヒューマンスキルを発揮するためには相互の信頼が前提、という主張は、やや大ざっぱすぎたということになります。たとえば交渉相手とは、互いの「能力」と「誠実さ」を認め合うことは、よい交渉結果を得るために必要でしょう。ただ「善意」は、少なくとも「悪意がない」ことは示すべきでしょうが、それ以上はケースバイケースです。

一般的な意味合いで信頼は重要ですが、寄りかかりすぎて「信頼がなければ事が進まない」と考えるのも短絡というものでしょう。成果と関係性を共に高めるために必要な要素をよく見極めていこうと思います。と、ここまで書いて、先日読んだ本を思い出しました。

アダム・カヘンの『敵とのコラボレーション』(英治出版、2018年)の副題は、ずばり「賛同できない人、好きではない人、信頼できない人と協働する方法」でした。信頼の役割についてもうすこし掘り下げて考える材料にすべく再読してみます。


(1) Mayer, Roger C., et al. “An Integrative Model of Organizational Trust.” Academy of Management Review, vol. 20, no. 3, 1995, pp. 709–734.

(2) “Trust is the willingness of a party to be vulnerable to the actions of another party based on the expectation that the other will perform a particular action important to the trustor, irrespective of the ability to monitor or control that other party.”

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